科学の力


   現代人は如何なる問題と難も、科学によって解決せられざるものはない ように言い、科学は万能薬のように思われているに対し私は質問したいの である。それは道徳は、芸術は、恋愛は、科学によって解決できるだろう かという事である。今仮に科学によって道徳上の問題が解決でき得るとす れば、最も科学教育を受けたところの最高学府を出た人士は、道徳的に優 れていなければならないに拘らず、漬職、破廉恥等の犯罪者も少なくな い事実を見れば、科学は道徳的には微力である事を物語っている。

   次に芸術であるが、これはまた意外である。科学の進歩せる今日の美術 家の作品を見る時、数百年以前の同様美術家の作品と比べて、科学を知ら ないその時代の作品の方が数段優れている事実を発見し、私は常に驚歎す るのである。

   ここに最も面白いと思う事は男女間の恋愛であるが、これは科学的に如 何に解釈するかである。以上の如き三大問題は人生に対し、最も解決を要 すべき重大問題であろう。なるほど、科学は唯物的には人類に対し偉大なる 貢献をなしつつあり、ますますその発展を要望してやまないが、前述の如 く科学によって解決不可能の問題も相当あり、これこそ宗教が分担すべき ものではなかろうか。ここにおいて私は思う。この両者の一致的進歩こそ 真の意味における人類文化の向上であろう事を。

昭和23年(1948年)9月5日
「信仰雑話」     『岡田茂吉全集』著述篇第六巻 p.49
『聖教書』 p.56


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