祖霊と死後の準備


   抑々人の死するや、仏教においては四十九日、神道においては五十日祭 をもって一時打ち切りにするが、それはその日を限りとして霊界へ復帰す るのである。それまで霊は仏教にては白木の位牌、神道にては麻で造った 人形の形をした神籬というものに憑依しているのである。ここで注意すべ きは、死者に対し悲しみの余りなかなか忘れ得ないのが一般の人情である が、これは考えものである。何故なればよく言う「往く所へ往けない」と か、「浮かばれない」とかいうのは、遺族の執念が死霊に対し引き止める からである。故にまず百カ日ぐらい過ぎた後はなるべく忘れるように努む べきで、写真なども百力日ぐらいまで安置し、その後一旦撤去した方がよ く、悲しみや執着を忘れるようになった頃また掛ければよいのである。

   次に仏壇の意義を概略説明するが、仏壇の中は極楽浄土の型であって、 それへ祖霊をお迎えするのである。極楽浄土は百花爛漫として香気漂い、 常に音楽を奏し飲食農かに諸霊は歓喜の生活をしている。それを現界に映 し花を上げ、線香を焚き、飲食を饌供するのである。また鐘は二つ叩けば よく、これは霊界における祖霊に対し合図の意味である。これを耳にした 多数の祖霊は一瞬にして仏壇の中へ集合する。しかしこの事は何十何百と いう祖霊であるから、小さな仏壇の中へ如何にして並列するか不思議に思 うであろうが、実は霊なるものは伸縮白在にして、仏壇等に集合する際は その場所に相応するだけの小さな形となるので、何段もの段階があって、 それに上中下の霊格のまま整然と順序正しく居並び、人間の礼拝に対して は諸霊も恭しく会釈さるるのである。そうして飲食の際は祖霊はそのもの の霊を吸収するのである。しかし霊の食料は非常に少なく、仏壇に上げた だけで余る事があるから、余った飲食は地獄の餓鬼の霊に施すので、その 徳によって祖霊は向上さるるのである。故に仏壇へはできるだけ平常と難 も初物、珍しき物、美味と思う物を一番先に饌供すべきで、昔から「孝行 をしたい時には親はなし」という諺があるが、そんな事は決してない。む しろ死後の霊的孝養を尽す事こそ大きな孝行となるのである。勿論墓参、 法事等も祖霊は頗る喜ばれるから、遺族または知人等もできるだけ供養を なすべきで、これによって霊は向上し、地獄から脱出する時期が促進さる るのである。

   世間よく仏壇を設置するのは長男だけで、次男以下は必要はないとして あるが、これは大きな誤りである。何となれば両親が生きているとして、 長男だけが厚遇し、次男以下は冷遇または寄り付けさせないとしたら、大な る親不孝となるではないか。そういう場合霊界におられる両親は気付かせ ようとして種々の方法をとるのである。そのために病人ができるという事 もあるから注意すべきである。

   今一つ注意すべきは改宗の場合である。それは神道の何々教にまつり変 えたり、宗教によっては仏壇を撤去する事があるが、これらも大いなる誤 りである。改宗する場合と雖も祖霊は直ちに新しき宗教に簡単に入信する ものではない。ちょうど生きた人間の場合家族の一員が改宗しても他の家 族悉くが直ちに共鳴するものではないと同様である。このため祖霊の中で は立腹さるるものもある。叱責のため種々のお気付けをされる事もある。 それが病気災難等となるから、この一文を読む人によっては思い当たる節 があるはずである。

   ここで霊界における団体の事を書いてみよう。霊界も現界と等しく各宗、 各派、大、中、小の団体に分れている。仏教五十数派、教派神道十三派及 び神社神道、キリスト教数派等々、それぞれ現界と等しく集団生活があっ て、死後霊は所属すべき団体にはいるが、それは生前信者であった団体に 帰属するのである。然るに生前なんら信仰のなかった者は所属すべき団体 がないから、無宿者となって大いに困却するわけであるから、生前信頼す べき集団に所属し、死後の準備をなしおくべきである。

   これについてこういう話がある。以前某所で交霊研究会があった際、某 霊媒に○○○○氏の霊が憑かった。そこで真偽を確かめるため夫人を招き鑑 定させたところ、確かに亡夫に違いないとの証言であった。その際種々の 問答を試みたところ、氏の霊は殆ど痴呆症の如く小児程度の知能で、立ち 合ったものはその意外に驚いたのである。それは如何なるわけかというと、 生前において死後を否定し信仰が無かったからで、生前トルストイの人道 主義に私淑し、人間としては尊敬すべき人であったに拘らず、右の如きは 全く霊界の存在を信じなかったからである。

昭和24年(1949年)8月25日
「自観叢書第三篇 霊界叢談」     『岡田茂吉全集』著述篇第六巻 p.206
『聖教書』 p.186


註:この論文は、「祖霊と死後の準備」の一部抜粋です。

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